難波南海通りを涙で濡らした歌手とは(本店より)。 |
ずいぶん昔の噺になります。
今はもうなくなった難波のCD屋で働いていたことがありました。
演歌の売り上げが店全体の半分以上を占めるという、ある意味特異なお店で。
業界全体がまだまだ元気だったこともあって、いろんな演歌歌手の方がキャンペーンにやって来ましたね。
それこそ新人から石川さゆり、小林幸子、山本譲二…とかとか。
で、店頭でゲリラ・ライブ兼サイン即売なんてこともたまにあったんですよ。
多少の知識もあったので私が即席PA担当みたいな感じでマイクとスピーカーとアンプをセッティングしたりして。
ま、盛り上がる日もあれば寂しい日も、ギャラリーの数はだいたい歌手の知名度と見合ったものでした。
そんな中で忘れもしない、後にも先にも一度だけ、通りを群集が塞いでしまって、ちょっとした騒ぎになった歌手がいます。
それが田端義夫でした。
予めの告知は全くなかったにも関わらず、店長が前説始めたあたりから、高齢層がどんどん集まってきて、バタやんが例のギター片手に「オース」と声をかけた頃には黒山の人だかりがヤンヤヤンヤ。
その人気の凄さに若い私は驚いたのですが、もっと驚いたのはこの後。
往年のヒット曲「かえり船」を歌いだした辺りから、見物客がみんなぼろぼろ泣くんですよ。
通りすがりのおばちゃんおっちゃんがそれこそみんな。
仰天しました。「これが本物のエンターテインメントというものか、すげーな」と。
呆気にとられた私と、感激する群集、さらに中止要請にきたおまわりさん達を尻目に、とうのバタやんはまた「オース」っつってさっさと帰っていきました。
粋だよ、粋。かっこよかったなぁ。